Profile
学生時代は「立の家喜八」の芸名で、落語研究会の活動に没頭した。日本旅行入社後は、神戸支店での海外旅行営業などを経てメディアトラベルセンターに配属。副支店長としてテレビ・ラジオ・新聞などマスメディアを活用した旅行販売業務を手掛ける。現在は「ヒラタ屋」のマネジメントを担当。仕事でアクティブに飛び回る分、休日はインドアでのんびり過ごすが、録画した旅番組は欠かさずチェックするという研究家。最近凝っているというワインを嗜むのが至上の楽しみと語る。
類い稀な才能を発揮し、いつしか“ナニワのカリスマ添乗員”と呼ばれるようになった日本旅行社員、平田進也と寺田一義。元々は一営業社員であった彼らは、自ら添乗員を務めながらお客様をとことん楽しませるというスタイルを確立していった。彼らのユニークな添乗ぶりは、たちまちお客様の間でも評判となり、今日の人気を不動のものにしていった。彼らがひとたびテレビで告知すれば、午前中は申し込みの電話が鳴り止まないという人気ぶりである。
そんなある日のこと、たまたま平田の添乗するツアーに同行した社長が、参加されたお客様が喜ばれている様子を見て、こう気付いた。
「彼らのサービスは日本旅行ならではの商品となる。専属部門を設立して、組織的に営業を展開すべきだ。その方が彼らも今以上に才能を活かせるだろう」
実はこれまで平田と寺田は、西日本営業本部の一員という立場から業務に携わっていた。“カリスマ添乗員”としての経験やノウハウを元にした特別組織があれば、機動力が増すことが期待される。そこで、2009年10月、平田を中心に「おもしろ旅企画 ヒラタ屋」という名前の事業ユニットが立ち上がった。ちなみに「ヒラタ屋」の名称は、読売テレビ系列のお昼の人気ワイド番組「情報ライブ ミヤネ屋」にちなんだもの。宮根誠司氏が司会を務める朝の情報番組に準レギュラーとして出演していた平田が、本人に了解を得て名づけたという。
日本旅行には、様々なメディアを活用して旅行商品を販売する部門、メディアトラベルセンターがある。企画したツアーをテレビや雑誌、インターネットなどで告知し、申込受付、販売、催行までを手掛けている。平田と寺田のマネジメント役として白羽の矢を立てられたのが、同部門の副支店長であった小畑である。これまで事業を統括してきた手腕と、メディア出演の絶えない彼らの後方支援を長年にわたり行ってきた実績が買われたのだ。小畑は、この事業を引き受けるにあたり、旅行サービスにおける新たなビジネスモデルを創出したいと考えた。
その戦略の一つは、平田と寺田を関西圏から全国区のカリスマ添乗員として知名度を高めること。全国で知られる存在になれば、企画の売り込みもしやすくなる上に、メディアへの出演機会も増えて宣伝効果もさらに高まる。そして、何と言っても営業エリアを広げられるというメリットがあるからだ。二つ目は、旅行と関連した商品の物販事業を展開すること。例えば全国各地の自治体や民間企業とタイアップして食材や名産品を販売したり、スポンサー企業と提携して旅行関連グッズを開発したりといった、ビジネスの拡張を目指しているのだ。そして三つ目は、平田と寺田のタレント性をさらにアピールすること。彼らの価値が高まれば、マネジメント業務で収益を上げることも可能となる。将来的には、小畑は彼らをメインMCに据えた旅番組を制作したいという。実は、すでにCS放送で番組制作の検討も始まっている。
小畑は、さらにもう一つ、どうしても「ヒラタ屋」でやらねばならないことがあるという。それは、すでに50代に突入した平田・寺田の次代を担う後継者の育成だ。せっかく新たなビジネスモデルを構築しても、この先、継続できなければ意味がない。そこで小畑は、次年度の新卒者の採用で、未来のカリスマ添乗員候補となる人材の採用枠を設けてもらおうとしている。
ただし、平田・寺田の後継者と言っても、必ずしも同じキャラクターを要求するわけではない。あくまでも、この「ヒラタ屋」のビジネスに賛同し、ユニークな旅行企画を実現したい、あるいは旅行ビジネスに新たな可能性を切り拓きたい、という人材を迎える方針である。できれば業界を元気にしてくれるような“旅ドル”(旅行業界のアイドル)を育成したいと意欲を燃やす。
「なぜ平田や寺田がカリスマ添乗員と呼ばれているのか、彼らのサービスにかける情熱を見たら、きっと理解していただけるでしょう。ですから単に面白い人を募集するわけではありません。社会人としてのマナーはもちろんのこと、旅行ビジネスに関する幅広い知識を持ち、お客様にきめ細やかなサービスが提供できる人材を育成していきたいと考えています」
また「ヒラタ屋」では、旅行業界を志す大学生を対象にしたセミナーの開催も検討している。実際に平田の添乗するツアーに参加してもらい、サービスの本質について学べる体感型のものだという。このセミナーの参加者から、新しい旅行ビジネスを切り拓く人材が現れることも期待されるだろう。
現在から、5年後、10年後を見据えて。「ヒラタ屋」の大ブレークは、決して夢物語ではなさそうだ。