ケーススタディ

プロレスで地域振興!? 新しい発想の旅行ビジネスへの挑戦

今本 誠二 1978年入社/機械工学学科卒 営業企画本部 地域振興室 マネージャー

Profile
観光庁の設立に伴って新設された、地域振興室に所属。主に国の行政機関や地方自治体、関連団体に営業を展開する。事業の核となる新たなビジネスモデルを創出することをミッションとしている。休日は月に一度、実家の西宮に帰宅。またコースをラウンドしたり、打ちっ放しに出かけたり、同僚や友人とゴルフを楽しんでいる。

工藤 勇輔 2000年入社/法学部法律学科卒 営業企画本部 法人営業・教育旅行チーム

Profile
現在所属する営業チームでは、主に学校の修学旅行や見学会、遠足などの旅行サービスを提供している。既成概念にとらわれない、何ごとにも果敢に挑戦する独自の営業スタイルが信条。月に1度は、二人の子供と観戦に出かけるという大の格闘技ファン。夫人とも格闘技が縁でゴールインしたという。

Phase1:“プロレスラーと交流できるツアー”を企画

 寝ても覚めても“格闘技”。そんなコアな格闘技ファンである工藤は、数年前に、あることに気づいた。それはゲームソフトの開発・販売を手がける「ユークス」と日本旅行との間に取引があるということだ。「ユークス」と言えば、工藤が愛してやまない新日本プロレスの親会社である。さっそく工藤は「ユークス」を通じて、新日本プロレスへアポイントを取り付けた。
 工藤は現在、主に学校を対象とした教育旅行を担当している。新日本プロレスを訪問したのは、何もファンだからという理由だけではない。新日本プロレスを修学旅行における見学先、あるいは体験学習先として交渉しようと考えたのだ。この提案は新日本プロレスに大いに歓迎され、逆に相談を持ちかけられることになったという。というのも新日本プロレスでは、テレビ放映が深夜枠に移るなど、若年層を含むファン離れに頭を抱えていたのだ。工藤は、この要請に何とか応えたいと、協力を固く決意。そして千葉県長生郡において「SUMMER DREAM FIESTA 2008」の実施にこぎ着けた。親子を対象にした夏休みのキャンプに、新日本プロレスとの交流会を盛り込んだツアー企画である。これが予想以上の好評を博し、工藤は確かな手応えを感じたという。


Phase2:部門間の連携で、プロレス×旅行×地域振興へ発展

 一方の今本は、観光立国を推進する行政機関「観光庁」の発足に伴って新設された、地域振興室に所属。地域の観光資源を活用した新たなビジネス展開を検討していた。そんなある日、たまたま工藤から新日本プロレスのイベントツアーの話を聞いた今本は、ひらめいた。「地域振興イベントの目玉として、人気の高いプロレスを呼べないか…」。そこで今本は、都市と地方の交流を促進している新潟県のグリーンツーリズムセンターに、その話を持ち込んだ。すると「ちょうど魚沼市が、新潟県中越大震災復興及び市政5周年を記念するイベントを計画しているので、アプローチしてみては」と勧められたという。
 その後今本は工藤と共に魚沼市を訪問。地域振興のイベントプランとして、旅行とプロレスを組み合わせた新たなモデルを提案した。すると地域の活性化と特産品のPR効果も期待できる、この提案に魚沼市は大喜び。もちろん新日本プロレスでも、地方における新たなプロレスファン獲得のチャンスとして、積極的に協力することを承諾。こうして魚沼市と新日本プロレスと日本旅行による、かつてない“トライアングルコラボレーション”が実現することになった。


Phase3:チケット販売戦略で地域住民を集客

 およそ1年に及ぶ入念な準備期間を要した地域振興イベント。実施にあたっては、魚沼市観光協会が主催者となり、魚沼市、新日本プロレス、日本旅行が、それぞれ共催するということで合意。イベント名も「AUTUMN DREAM FIESTA 2009in魚沼」に決定した。
 もちろん、すべてが順調に進んだわけではない。全国区の新日本プロレスですら、人口10万人以下の都市での興行は基本的に行っていないのが実情。それを人口約42,000人の魚沼市で開催するというのだから、一抹の不安はぬぐえなかった。そこで今本と工藤は、地域住民に気軽に観戦してもらうことを狙い、会場の8割を占める客席について、通常5000円以上の観戦料を1000円と2000円に留めることを新日本プロレスに打診した。一方で自治体に対しては、地域のネットワークを活用してチケット販売を引き受けてもらえるように依頼。「結チケット」と命名された座席は、3者の積極的な告知活動と、自治体の人海戦術によって完売するに至った。また日本旅行でも一般60名、現地60名のツアー(1泊2日)を企画。WEB・携帯サイトで告知したところ、ツアーは即座にソールドアウトしたという。今本と工藤は、このチケット販売戦略が、地域振興イベントを成功に導く重要なファクターとなったと語る。


Phase4:プレイベントを礎に、本イベントを成功に導く

 成功の礎となった要素は、もうひとつある。それはプレイベントの実施だ。ぶっつけ本番では心ともないと考えた今本と工藤は、魚沼市観光協会が主催する地元恒例の「うおぬま夏の雪まつり」とのタイアップ企画として、同年7月に「SUMMER DREAM FIESTA 2009 in魚沼」を開催。真夏の銀山平で雪遊びを楽しむイベントに、新日本プロレスのレスラーが駆けつけ、多くの参加者と交流を深めた。この様子は、様々なメディアでも報道され、10月の本イベントを開催する上で大きな足がかりとなった。
 そして、いよいよ10月に本イベントの日を迎えた。会場では新日本プロレスの試合をはじめ、子供プロレス教室、特産品のPRを兼ねたファン交流会、魚沼観光ツアーなど、盛りだくさんのプログラムが実施され、大勢の地域住民がイベントを楽しんだ。もちろんメインイベントのプロレス会場は、ツアー客を含む2500人の観衆で埋め尽くされ、大いに盛り上がりを見せた。また魚沼市の大平悦子市長もイベントに出席。今後も積極的に地域の活性化、観光資源の開発に取り組んでいかれることを語られた。こうして“トライアングルコラボレーション”によって開催された地域振興イベントは無事に終了。今後の展開も注目されている。


担当者コメント

今本 誠二
このイベントを成功させることによって、新たなビジネスモデルが創出できました。これからも観光立国の推進、そして地方分権を大きなビジネスチャンスと捉え、旅行サービスの新たな可能性を切り拓いていきたいですね。今後は行政と民間企業、団体の橋渡しをする役割を果たしながら、この成功事例を核となる事業へ発展させていきたいと考えています。

工藤 勇輔
格闘技好きが高じて思わぬビッグプロジェクトへ発展しましたが、これがカタチのないものを扱う、旅行ビジネスならではの自由さであり醍醐味だと思います。また、今本のような他部門のメンバーも巻き込んでプロジェクトを推進できたのは、フットワークが軽い日本旅行の社内風土ゆえ。今後は、このイベントで培ったノウハウを活用し、他の競技団体などへも積極的にアプローチしていきたいですね。また地域振興を切り口に、地方での民泊体験や農林水産体験などを盛り込んだ修学旅行なども提案していきたいと考えています。


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