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汽車旅ひろば - ひろやすの汽車旅コラム

汽車旅ひろば


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"鉄道フォーラム"代表の伊藤博康氏による鉄道コラム。
毎回幅広いテーマの中から、「乗ってみたい」「知って良かった」「へぇ~」な汽車旅関連の話題をご紹介します。お楽しみに!

鉄道文化財をめぐる(3) 重要文化財の跳ね上げ橋 [No.H023]

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いま、日本で唯一稼動する可動橋「末広橋」
下は運河で、船が行き来する。
国の重要文化財に指定されている。
跳ね上げ橋(跳開橋)を見たことがありますか?
船が通過する際、水面からの距離が十分でないと船が橋桁に衝突してしまいます。それを避けるために、橋を跳ね上げて船を安全に通過できるようにしているものです。
同様な可動橋には、より規模の大きな昇開橋もあります。こちらは、橋桁の一部を水平に吊り上げて、船の通過に十分な高さになるようにしたものです。
可動橋は、かつて国内に何カ所もありました。道路橋だと、多くはないものの跳ね上げ橋がいまも各地で見られます。
しかし、現役の鉄道橋となると、三重県の四日市市にある末広橋が、唯一の跳ね上げ橋となっています。それだけに、重要文化財に指定されています。

この末広橋は千歳運河に架かっていて、ふだんは跳ね上げた状態です。そこを、ときどき船が行き来しています。
列車が通過する20分くらい前になると、係の方が自転車でやってきます。橋のたもとに操作をする小屋があり、そこに入って橋を下ろします。列車が通過すると、また橋を跳ね上げて係の方は戻って行かれます。
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「末広橋」を渡るDD51牽引の貨物列車。
大阪セメントから空の貨車を引き取り、
四日市駅を経由して三岐鉄道東藤原駅を目ざす。
この橋を通過するのは貨物列車だけで、橋を渡ったさきには太平洋セメント藤原工場四日市出荷センターがあります。藤原工場というのは、四日市の北にある富田という駅からでている三岐鉄道の終点近くにある工場で、藤原岳の石灰石を採取する工場です。つまり、藤原岳からとれた石灰石を三岐鉄道でJR富田駅に運び、ここからJR貨物が関西本線で四日市駅まで運び、さらに太平洋セメントの入れ換え機で出荷センターまで運んで、船で出荷するという仕組みです。なお、伊勢湾の沖合に造られた中部国際空港の埋め立て用の土砂も、開港前にこのルートで運ばれていました。


さて、話を末広橋に戻します。
同橋はJR四日市駅港内の扱いとなっています。ですから、先に“列車が通過する”と書きましたが、正確には入換えの一種であって列車ではありません。ですから、JR貨物時刻表には三岐鉄道と関西本線の時刻を載せていますが、末広橋を渡る時刻はでていません。
でも、四日市駅を発着する前後に渡りますから、だいたいの時刻はわかります。2012年3月改正のJR貨物時刻表には、関西本線の定期貨物列車が次の通り3往復記されています。

四日市 富田
09:47←09:37
11:00→11:09
12:45←12:25
13:34→13:42
14:44←14:34
15:43→15:50

この前後に臨時列車が各1往復あるので、多いときには5往復が走ります。
四日市駅では1時間前後で折り返していることが判りますよね。その間に、末広橋を渡り、太平洋セメントの入れ換え機と貨車のやりとりをします。貨車のやりとりは至ってスピーディで、末広橋を渡ってから10分くらいで再び橋を渡って四日市駅に戻ります。
時刻の目安としては、四日市駅着後15分くらいで末広橋をわたり、10分くらいすると再度渡って戻るという感じです。

末広橋が動いている様子は、ぜひ一度見てみたいですよね。
場所は、JR四日市駅から南東へ1キロ強の位置です。ただし、太平洋セメントとのやりとりを見るには片道2キロ近い距離になります。そこでお勧めなのは、レンタサイクルです。四日市市は「自動車に過度に頼らない、歩いて暮らせるまち」を目ざして「こにゅうどう」というレンタサイクルサービスを行っています。JR四日市駅舎内と近鉄四日市駅北自転車駐車場2階で借りられ、平成24年度は日祝も借りられて1日120円。電動アシスト付でも1日240円と格安です。かなり利用されている様子なので、平成25年度も事業が継続されるのではと予想しています。
休日は橋が下がったままになるので、できれば平日か土曜日に行くと良いでしょう。
ただし、例年5~6月に工場の定期検査があり、列車も長期運休となりますので、この時期は避けましょう。

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「末広橋」と並行に架かる「臨港橋」
道路の可動橋で、稼働時には遮断機が降りる。
道路面がせり上がると、なかなか迫力がある。
ちなみに、末広橋を真横から見られる運河に架かる道路橋「臨港橋」も跳ね上げ橋です。運良く船が通過するタイミングで行けば、鉄道と道路、ふたつの可動橋を同時に楽しむことができますよ。



掲載日:2013年02月01日


●伊藤 博康(いとう ひろやす)
(有)鉄道フォーラム代表。愛知県犬山市生まれ。パソコン通信NIFTY-Serve草創期から鉄道フォーラムに関わり、1992年から運営責任者。(有)鉄道フォーラムを設立後、独自サーバでサービスを継続中。著書に「日本の “珍々”踏切」(東邦出版)「鉄道ファンのためのトレインビューホテル」「鉄道名所の事典」(東京堂出版)がある。現在、中日新聞社「達人に訊け」でもコラムを連載中。